FortiCloudで変革するセキュリティ運用:多拠点管理の課題を解決してコストを削減する実践ガイド

目次

はじめに

初めまして、合同会社Artopeerの越川と申します。
記事をご覧いただきありがとうございます。

私は10年以上にわたり、ウェブアプリケーション開発からサーバー構築まで幅広く経験し、現在はシステムの安定稼働、データ保護、サイバー脅威対策といった分野に注力しています。
そのような経験から、現代のビジネス環境におけるデータの重要性と、それを保護する必要性を日々痛感しております。

そしてまさにその「保護」がますます重要となる現代において、企業ネットワークはクラウド化、リモートワークの普及、IoTデバイスの増加などにより、かつてないほど複雑化しています。

これに伴い、サイバー攻撃の手法も巧妙化・高度化の一途をたどっており、セキュリティ対策の重要性はますます高まっています。
しかし、多くの企業において、セキュリティ人材の不足や運用負荷の増大が課題となっているのではないでしょうか。

このような課題を解決する一つのソリューションとして、Fortinet社が提供するクラウドベースのセキュリティ管理プラットフォーム「FortiCloud」が注目を集めています。

本記事では、セキュリティエンジニアや情報システム部門の皆様がFortiCloudの導入を検討する際に役立つよう、その機能、メリット、活用方法などを技術的な視点から解説します。

FortiCloudとはなにか

FortiCloudは、Fortinet社が提供するクラウドベースのサービスプラットフォームです。
FortiGate(次世代ファイアウォール)をはじめとするFortinet製品のログ収集・分析、デバイス管理、サンドボックスサービス、無線LANアクセスポイント管理など、多岐にわたるセキュリティ運用機能を集約し、一元的に提供します。

【FortiCloudのサービス概要図】

参考文献:https://www.fortinet.com/jp/solutions/forticloud/usecases

具体的には、主に以下のようなサービスコンポーネントで構成されています。

  • FortiGate Cloud
    FortiGateの集中管理、ファームウェアアップデート、構成バックアップ、リモートアクセス、ログの可視化などを提供します。
    多拠点に展開されたFortiGateもクラウドから一元的に管理できます。
  • FortiAnalyzer Cloud
    FortiGateなどのFortinet製品から収集したログをクラウド上で長期保管し、高度な分析やレポート作成機能を提供します。
    これにより、セキュリティインシデントの早期発見や原因究明、コンプライアンス対応を支援します。
     
    注釈:
    • ログ
      コンピュータシステムやネットワーク機器の動作状況、通信履歴、エラー情報などを記録したデータのこと。
      セキュリティインシデント発生時の原因究明や不正アクセスの追跡などに不可欠です。
  • FortiSandbox Cloud
    未知のマルウェアやゼロデイ攻撃の検知・分析を行うクラウドサンドボックスサービスです。
    FortiGateなどと連携し、疑わしいファイルをクラウド上で実行・分析することで、高度な脅威からネットワークを保護します。

    注釈:
    • サンドボックス
      外部から受け取ったプログラムを保護された領域で動作させて、その挙動を監視・分析するセキュリティ技術。
      未知のマルウェアがシステムに影響を与える前に検知することを目的とします。
    • ゼロデイ攻撃
      ソフトウェアの脆弱性が発見されてから、修正パッチが提供されるまでの間に、その脆弱性を悪用して行われるサイバー攻撃のこと。 
  • FortiAP Cloud
    Fortinet製の無線LANアクセスポイント(FortiAP)のプロビジョニング、監視、管理をクラウドから行えます。
    これにより、多拠点に展開された無線LAN環境も容易に一元管理できます。 
  • FortiManager Cloud
    FortiGateやFortiAnalyzerなどのFortinetセキュリティファブリックコンポーネントの包括的な集中管理機能を提供します。
    大規模環境や複雑なポリシー管理に適しています。

これらのサービスを利用することで、オンプレミス環境に専用の管理サーバーやログサーバーを構築・運用する手間やコストを削減し、より効率的で柔軟なセキュリティ運用体制を構築できます。

なぜ「FortiCloud」が活用されるのか

多くの企業でFortiCloudが注目され、活用されている背景には、以下のような理由が挙げられます。

1. セキュリティ運用負荷の軽減と効率化

従来のオンプレミス型のセキュリティ運用では、管理サーバーやログサーバーの構築、維持管理、パッチ適用、リソース増強などに多くの手間とコストがかかっていました。
 
FortiCloudを利用することで、これらのインフラ管理業務から解放され、セキュリティ担当者は本来注力すべき脅威分析やインシデント対応といったコア業務に集中できます。

  • 具体例
    中小企業の情報システム担当者が、限られたリソースの中でFortiGateのログ管理やファームウェアアップデートに多くの時間を割かれていたとします。

    FortiGate Cloudを導入することで、これらの作業が自動化・簡素化され、他の重要な業務に取り組む時間を確保できるようになります。

2. 導入・運用の容易さとコスト削減

FortiCloudはクラウドサービスであるため、初期導入時のハードウェア調達や複雑なシステム構築が不要です。
FortiGateなどの対応デバイスをFortiCloudアカウントに登録するだけで、すぐに利用を開始できます。

また、従量課金制やサブスクリプションモデルが中心となるため、初期投資を抑えつつ、必要な機能からスモールスタートし、ビジネスの成長に合わせて拡張していくことが可能です。

3. 高度な脅威インテリジェンスとの連携

FortiGuard Labs(Fortinetの脅威リサーチチーム)が提供する最新の脅威インテリジェンスとシームレスに連携できる点も大きなメリットです。

FortiSandbox Cloudなどを通じて、世界中で検知された最新のマルウェア情報や脆弱性情報がリアルタイムに提供され、プロアクティブな脅威対策を実現します。

注釈:

  • 脅威インテリジェンス
    サイバー攻撃の動向、攻撃者の手法、マルウェアの特性、脆弱性情報など、脅威に関する情報を収集・分析し、対策に活用できるように体系化した知識のこと。

4. 多拠点・リモート環境の一元管理

複数の拠点を持つ企業や、リモートワーク環境が拡大している企業にとって、各拠点に分散するセキュリティ機器を一元的に管理できることは非常に重要です。

FortiCloudは、場所を問わず、どこからでもブラウザ経由で各拠点のFortiGateやFortiAPの状態監視、設定変更、ログ確認などを行えるため、運用効率が大幅に向上します。

  • 具体例
    全国に支店を持つ小売業が、各店舗に設置されたFortiGateのセキュリティポリシー統一やログ監視に課題を抱えていたとします。

    FortiCloudを導入することで、本社から全店舗のFortiGateを一元的に管理し、均一なセキュリティレベルを維持できるようになります。

5. 災害対策・事業継続性(BCP)の向上

ログデータや設定情報などをクラウド上に保管することで、オンプレミス環境で災害やシステム障害が発生した場合でも、データの消失リスクを低減し、迅速な復旧を支援します。

これは、事業継続計画(BCP)の観点からも非常に有効です。

注釈:

  • 事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)企業が自然災害、大事故、システム障害などの緊急事態に遭遇した場合において、損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。

FortiCloudの具体的なステップ(使い方や導入方法など)

FortiCloudの利用開始は非常にシンプルです。
ここでは、FortiGateをFortiCloudに登録し、基本的な機能を利用するまでの一般的なステップを紹介します。

ステップ1:FortiCloudアカウントの作成

  1. FortiCloudの公式サイト(https://www.forticloud.com/)にアクセスします。
  2. 「Sign Up」または「Register」から、必要な情報(メールアドレス、パスワードなど)を入力し、アカウントを作成します。
  3. 登録したメールアドレスに確認メールが送信されるので、指示に従ってアカウントを有効化します。

ステップ2:FortiGateのFortiCloudへの登録

FortiGateをFortiCloudアカウントに紐付ける方法はいくつかありますが、ここではFortiGateのGUIから直接登録する方法を説明します。

  1. FortiGateの管理画面にログインします。
  2. 「システム」>「FortiGuard」メニュー(バージョンによってメニュー名が異なる場合があります)に移動します。
  3. 「FortiCloudアカウント」または「FortiGate Cloud」のセクションで、「アカウントを有効化」または「ログイン」を選択します。
  4. ステップ1で作成したFortiCloudアカウントの認証情報を入力し、ログインします。
  5. 正常に認証されると、FortiGateがFortiCloudアカウントに登録されます。

ステップ3:FortiCloudポータルへのアクセスと基本操作

  1. FortiCloudの公式サイトから、作成したアカウントでログインします。
  2. ログイン後、ダッシュボードが表示され、登録されているデバイスの一覧や各種サービスのメニューにアクセスできます。 
  3. FortiGate Cloudの利用
    「Inventory」や「Devices」メニューから、登録されたFortiGateの状態を確認できます。
    対象のFortiGateを選択すると、リモートアクセス、設定バックアップ/リストア、ファームウェア管理、ログ表示(Cloud Loggingが有効な場合)などの機能を利用できます。

    「Analysis」タブでは、トラフィックログ、脅威ログなどをグラフや表で可視化し、セキュリティ状況を把握できます。(FortiAnalyzer Cloudの機能と連携) 
  4. FortiAnalyzer Cloudの利用(別途ライセンスが必要な場合があります)
    FortiGateでFortiCloudへのログ送信設定を有効にすると、ログがFortiAnalyzer Cloudに収集・保存されます。
    FortiCloudポータルからFortiAnalyzer Cloudにアクセスし、詳細なログ分析、レポート作成、イベント監視などを行えます。 
  5. FortiSandbox Cloudの利用(別途ライセンスが必要な場合があります)
    FortiGateのアンチウイルスプロファイルなどで、サンドボックス連携を有効にし、送信先としてFortiSandbox Cloudを指定します。

    FortiGateが検知した不審なファイルは自動的にFortiSandbox Cloudに送信され、分析結果がFortiGateにフィードバックされます。

    分析レポートはFortiCloudポータルからも確認できます。

導入時のポイント

  • ライセンスの確認
    利用したいFortiCloudサービス(特にFortiAnalyzer CloudやFortiSandbox Cloudなど有償の高度な機能)には、別途ライセンス契約が必要な場合があります。
    事前に必要なライセンス体系を確認しましょう。
     
  • ログ保存期間と容量
    FortiAnalyzer Cloudを利用する場合、ログの保存期間や容量によってプランが異なります。
    自社のコンプライアンス要件や分析ニーズに合わせて適切なプランを選択する必要があります。
     
  • ネットワーク帯域
    FortiGateからFortiCloudへログを常時送信する場合、ある程度のアップロード帯域を消費します。
    特にWAN回線が細い拠点では影響を考慮し、必要に応じて送信するログの種類や頻度を調整することが推奨されます。
     
  • セキュリティ設定
    FortiCloudアカウント自体のセキュリティも重要です。
    強力なパスワードを設定し、可能であれば二要素認証(2FA)を有効にしましょう。

FortiCloudのメリット

他製品との比較

FortiCloudと同様に、セキュリティ機器のクラウド管理プラットフォームを提供するベンダーは他にも存在します。

例えば、Cisco Meraki DashboardやPalo Alto Networks Cortex Data Lakeなどが挙げられます。
これらの製品と比較した場合のFortiCloudの主なメリットは以下の通りです。

比較ポイントFortiCloud (Fortinet)Cisco Meraki DashboardPalo Alto Networks Cortex Data Lake
エコシステムFortinet製品(FortiGate, FortiAPなど)との親和性が非常に高い。セキュリティファブリック構想の中核。Cisco Meraki製品群に特化。シンプルで使いやすいUIが特徴。Palo Alto Networks製品群のログ集約・分析基盤。AI/ML活用が強み。
機能の網羅性ログ管理、デバイス管理、サンドボックス、無線LAN管理など、単一プラットフォームで多様な機能を提供。ネットワーク管理(有線・無線LAN、SD-WAN、セキュリティカメラなど)に強み。主にログ収集・分析、脅威検知(XDR機能)に特化。
コスト比較的安価に基本的なクラウド管理機能を利用開始できる。必要な機能に応じてライセンスを追加。ライセンス体系がシンプルだが、初期コストが高めになる傾向がある場合も。高度な分析機能を利用する場合は相応のコストが必要。
導入の柔軟性オンプレミスFortiGateとのハイブリッド構成も容易。スモールスタートしやすい。クラウドネイティブなアーキテクチャ。オンプレミス製品との連携は限定的。クラウドベースのデータレイクとして設計。
ターゲットFortinet製品を既に導入している、または導入検討中の企業。幅広い規模の企業に対応。クラウド中心のネットワークインフラを志向する企業。特に分散拠点を持つ場合に強み。高度な脅威分析やSOAR(Security Orchestration, Automation and Response)を求める企業。

FortiCloudの独自の強み

  • Fortinet Security Fabricとの緊密な連携
    FortiCloudは、Fortinetが提唱する「セキュリティファブリック」アーキテクチャの重要な構成要素です。
     
    FortiGate、FortiAP、FortiSwitch、FortiClientなど、様々なFortinet製品がシームレスに連携し、脅威情報を共有し、自動化された対応を実現する上で、FortiCloudは司令塔のような役割を果たします。

    注釈
    • セキュリティファブリック
      個々のセキュリティ製品が連携し、網の目のように広範囲をカバーし、統合的に機能するセキュリティアーキテクチャの概念。 
  • 費用対効果の高さ
    特にFortiGateを既に利用しているユーザーにとっては、追加コストを抑えながらクラウド管理のメリットを享受できる点が魅力です。

    基本的なログ管理やデバイス管理機能は無償または低価格で提供される場合が多く、中小企業でも導入しやすい価格設定となっています。
     
  • 幅広い製品ポートフォリオのカバー
    ファイアウォールだけでなく、無線LAN、サンドボックス、エンドポイントセキュリティ(FortiClientとの連携)など、Fortinetの幅広い製品群をFortiCloudを通じて統合的に管理できる可能性があります(サービスによる)。


もちろん、各製品にはそれぞれの強みがあり、企業のニーズや既存環境によって最適なソリューションは異なります。
しかし、Fortinet製品を中核としたセキュリティインフラを構築・運用している、あるいは検討している企業にとって、FortiCloudは非常に有力な選択肢となるでしょう。

活用方法

FortiCloudは、様々な業種・規模の企業で活用され、セキュリティ運用の効率化や強化に貢献しています。
ここでは、具体的な活用方法について、想定される場面と効果をセットでお伝えします。

1. 多拠点展開する小売業A社

  • 課題
    全国に多数の店舗を展開しており、各店舗に設置されたFortiGateの運用管理(設定変更、ファームウェアアップデート、ログ監視)が煩雑で、IT担当者の負荷が高かった。
     
    また、店舗ごとにセキュリティポリシーの統一が難しく、セキュリティレベルにばらつきが生じていた。
     
  • FortiCloud導入による効果
    FortiGate Cloudを導入し、本社から全店舗のFortiGateを一元的に監視・管理できるようになった。
    テンプレート機能を活用して、全店舗に統一されたセキュリティポリシーを効率的に適用できた。
     
    障害発生時も、リモートから迅速に状況把握と一次対応が可能になり、現地対応の頻度が削減された。
    ログ管理もFortiAnalyzer Cloudに移行し、レポート作成やインシデント調査の効率が向上した。

2. 急速に成長するITサービス企業B社

  • 課題
    事業拡大に伴い、従業員数とネットワークトラフィックが急増。
    セキュリティインシデントのリスクも高まっていたが、専任のセキュリティアナリストを多数抱える余裕はなかった。
     
    また、未知の脅威への対策も急務だった。
     
  • FortiCloud導入による効果
    FortiSandbox Cloudを導入し、FortiGateと連携させることで、未知のマルウェアや標的型攻撃に対する検知能力を強化した。
     
    FortiAnalyzer Cloudを活用して脅威ログやトラフィックログを詳細に分析を行い、不審な通信や異常な挙動を早期に発見して迅速に対応できる体制を構築した。
     
    クラウドベースであるため、管理サーバーの増強などを気にすることなく、ビジネスの成長に合わせて柔軟にセキュリティ基盤をスケールアップできた。

3. リモートワークを推進する製造業C社

  • 課題
    リモートワーク環境の拡大に伴い、社内外のネットワーク境界が曖昧になり、セキュリティリスクが増大。
    VPN接続の管理や、社外からアクセスするデバイスのセキュリティ確保が課題となっていた。
     
  • FortiCloud導入による効果
    FortiGate Cloudを利用して、VPN接続ユーザーの可視化やトラフィック監視を強化。
    FortiClient(エンドポイントセキュリティ製品)と連携し、社外デバイスのセキュリティ状態も一元的に把握(FortiClient EMSの機能と連携し、FortiCloud経由で一部情報を確認できる場合がある)。

    FortiToken Cloud(多要素認証サービス)と連携し、VPNアクセスやクラウドサービス利用時の認証を強化。


これらは活用方法の一部ですが、FortiCloudが企業の規模や業種を問わず、多様なセキュリティ課題の解決に貢献できることを示しています。

まとめ

本記事では、Fortinet社のクラウドセキュリティプラットフォーム「FortiCloud」について、その概要、活用理由、具体的な使い方、他製品との比較、そして活用事例に至るまで、技術的な視点を交えながら解説しました。

FortiCloudは、FortiGateをはじめとするFortinet製品の運用管理を大幅に効率化し、ログ分析や脅威インテリジェンス連携を通じてセキュリティレベルを向上させる強力なツールです。

特に、以下のようなニーズを持つ企業にとって、大きなメリットをもたらすでしょう。

  • セキュリティ運用担当者の負荷を軽減したい
  • 多拠点に展開するセキュリティ機器を一元管理したい
  • 高度な脅威分析や未知のマルウェア対策を強化したい
  • セキュリティインフラの導入・運用コストを最適化したい
  • クラウドのメリットを活かして柔軟で拡張性の高いセキュリティ体制を構築したい

もちろん、FortiCloudを最大限に活用するためには、自社の環境やセキュリティポリシーに合わせた適切な設計と設定が不可欠です。

本記事が、皆様のFortiCloud導入検討の一助となれば幸いです。

より詳細な情報や技術的なご相談については、Fortinetの公式サイトや、信頼できるパートナー企業にお問い合わせいただくことをお勧めします。

参考文献

比較参考

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